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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ―植物好きは面白い。
■╋ 「植物文化人物事典」
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このたび、「植物文化人物事典」の制作を担当しました。この事典は
「植物」をテーマに、江戸本草学、近代植物学、園芸学、農学、文学、
美術、保護など分野を越えて人物を収録した、ちょっと類のない人物
事典です。当方、植物学者といえば牧野富太郎くらいしか知らなかっ
た文系人間なのですが、作業を進めるにつれ、その奥深さにどんどん
魅了されました。なぜならば…
「植物好きって変な人が多いのです」
編者・大場秀章先生のお言葉ですが、まさにその通り。牧野の植物一
直線の人生はつとに有名ですが、その他にも、ノルディックスキーの
先駆者でもあった水産植物学者・遠藤吉三郎、2000年前のハスの実か
ら開花させた大賀一郎、清貧で“植物道楽学者”と“尊敬”された大
沼宏平、クロレラ研究の権威にしてチェロの名手でもあった田宮博、
わが国初の女性理学博士保井コノ、ノーベル賞の恩人といわれた稲塚
権次郎、トリカブトの毒で死んだといわれる白井光太郎などなど、人
生が個性的で、世に知られていないなんて勿体無い!と思わせる人物
が多数なのです。人生が読み物のような彼ら。この人たちをもっと世
に知らしめたい!と次第に編集に熱が入りました。
1割にあたる120人には肖像(写真・絵)も掲載しました。著名植物学
者から、無名植物研究家、さらには黒髪の牧野富太郎、お茶目なポー
ズのシーボルト、編者の大場先生が自身で撮影された伊藤洋(昭和天
皇の植物の相談相手を務めた方)、などなど貴重な図版も多数ありま
す。適当な頁からめくって眺めて読むだけでも、「へー!」と楽しめ
る人物事典になりました。
もっともただ収録して五十音順に並べただけでは能がありませんし、
今回多分野・多数の人物を収録しましたので、検索に役立つように索
引を二種類ご用意しました。
(1)人名索引
別称、旧称は勿論、「キノコ博士」「昭和の花咲かじいさん」「コシ
ヒカリの父」などのあだ名から、さらに、家族や師弟など、収録人物
と関係のあった人物からも引くことができます。例えば、正宗白鳥→
弟で植物学者・正宗巌敬、サトウハチロー→祖父でリンゴの権威・佐
藤弥六、中井英夫→父で植物学者・中井猛之進に祖父で農学者・堀誠
太郎、アインシュタイン→一緒に東北大学の壁にサインしたモーリッ
シュ、東郷平八郎→息子で宮中植木屋・東郷彪、という具合。有名人
の意外な関係者を見つけることができます。また、収録されている人
物が、他のどの人物の記述に出てくるかもわかります。例えば、植物
学の研究でも著名だった昭和天皇。彼に進講を行ったり、相談相手と
なった人物で、本書に収録されている人物は朝比奈泰彦、南方熊楠ら
なんと28人もいるのですが、それが一目瞭然。つまり“植物に関する
横のつながり”も簡単に知ることができます。
(2)事項名索引
学問分類、植物名、団体・企業名などから人名を引くことができます。
例えば「サクラ」からは、日本画家の跡見玉枝、研究を行った大井次
三郎、匿名でサクラを寄付して“サクラのあしながおじさん”と呼ば
れた瀬川弥太郎、開花予想の発表を始めた気象庁職員の大後美保、サ
クラの名所を作った将軍吉宗、保護に努めた船津静作など、という具
合。また、地方で採集・調査に励み、他の人名事典には掲載されてい
ないけれども、斯界の研究に貢献したアマチュア研究家も、その地方・
県名から調べることが可能です。例えば「植物研究(兵庫)」からは
大上宇市、樋口繁一など。郷土の偉人調査にも有用です。
ちなみにネットではほとんど引けません(そもそもWikipediaの「日
本の植物学者」カテゴリには20人しかいないのですが)。
本文からも索引からも楽しめる人物事典。是非じっくり読み込んでい
ただけたら幸いです。
(編集部・岩崎)
『植物文化人物事典―江戸から近現代・植物に魅せられた人々』
大場秀章〔編〕 A5・640p 定価7,980円(本体7,600円)
2007.4刊 ISBN978-4-8169-2026-4
http://www.nichigai.co.jp/sales/botany.html
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