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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ― 技術史におけるアーカイブズの蓄積
■╋ 『技術革新はどう行われてきたか』
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著者積年の主張が、本書に結実いたしました。
著者の紹介は、以下のHPが参考になると思います。
〈馬渕浩一の研究・教育の概要〉
http://www.asahi-net.or.jp/~zw4k-mbc/index.htm
どういうことを主張される著者かといいますと、これは別のところで
たとえば、
・携帯電話のリチウムイオン電池を入れているステンレスのケース
には、深絞りという技術が生きている。これはステンレス製ライタ
ーで培った技術が受け継がれたものである。
・日本の過去の水力発電技術は、いまは我が国には当てはまらない
が、発展途上国がこれから発電所を作るのに大いに役立つ技術で
ある。
・日本の在来工法「たたき」の技術は、たとえばアンコールワットの遺
跡の修復に役立った。等々(本著でも紹介)。
たたき、では本書でも、「長七たたき」の事例が紹介されていますが、
このように、先人が文字通り命がけで培った技術が、時間と空間を超
えて生きる、ということを綿密に実証されています。
我が国の産業技術は、一方でICなど分秒を争う最先端の技術が世界を
舞台にしのぎを削っているかと思うと、一方では、一見、現在とは無
関係な技術が、角度を変えて甦ってくる、という状況が併走している
ように見えます。
かの三菱重工などは、造船の技術輸出がおおいに業績に与っている、
と漏れ聞きます。
製鉄、機械、土木などで、このような蓄積がいかに行われ、現代に生
かされているか、著者は丹念に掬い取って叙述しています。製鉄で言
えば、「たたら製鉄」。身近では宮崎駿の『もののけ姫』で、足し踏
みしてふいごを吹いているシーンをご覧になったかたも多いでしょう。
この技術の有効・限界性を参考に、さらに西洋の技術の導入から、反
射炉、高炉という流れが出来上がります。
残すべき、あるいは残ってきた貴重な資源、資料は「アーカイブズ」
と言われます。
別件になりますが、わたしは最近、東京大空襲時、33枚の写真を撮っ
た警視庁カメラマン・石川光陽氏のことを知りました。戦後になって
もそのネガをGHQの提出要求に、断固はねのけて渡さなかった、といい
ます。
命がけで撮ったものを、だれに引き継ぐのか。引き継いでいく大切さ、
というアーカイブズの使命の一端を教えられた気がしました。
本書では、換言すれば、技術史における、アーカイブズの蓄積と伝え
られ方さらに活用方法が語られている、と申すことも出来るかもしれ
ません。
今後の我が国産業発展のヒントが、本書によってその一端なりとも垣
間見られれば、著者、編集者とも、これにすぐる喜びはありません。
(編集部・朝日)
◆ 『技術革新はどう行われてきたか ―新しい価値創造に向けて』
馬渕浩一〔著〕
定価 3,800円(税込) A5・260p 2008年2月刊
ISBN:978-4-8169-2094-3
http://www.nichigai.co.jp/sales/2094-3.html