1982年に刊行が始まった小社・人物書誌大系シリーズも41巻目を迎え、
装丁が一新されました。人物書誌大系とは、特定の個人に関する年譜+
著作目録+参考文献目録の三部で構成される“個人書誌”の集大成シリ
ーズ。ある人物が書いたものを探す場合と、ある人物に関する文献を探
す場合の両方に対応しています。
その最新刊の対象人物は、徹底した史料収集と綿密な現地取材に基づい
た記録文学・歴史小説の名手「吉村昭」です。
編者の木村暢男(きむらのぶお)氏は、吉村昭研究会会長。定年後、吉
村昭に関する資料・著作の整理・研究に専念し、2000年~2006年まで毎
年『吉村昭年譜』(私家版)を増補・改訂してきました。本書は、吉村
昭の作品・エッセイ・対談など全著作(単行本未収録も含む)と、研究
文献・記事・文庫解説などを網羅した、初の本格的書誌です。
ここで『うなぎ』(今村昌平監督)として映画化された短編「闇にひら
めく」を引いてみましょう。映画は原作とは大分違う設定ですが、1997
年カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞しています。
> 741 闇にひらめく
> ◎S53.7 「小説新潮」
> (収)H1.1 『海馬』新潮社
> *H2.1.14 「日曜名作座」NHKラジオ第1
> *H4.6 『海馬』新潮文庫
> *H9.5 原作の映画『うなぎ』がカンヌ国際映画祭で大賞を受賞
> *H9.5 ビデオ1巻 117分 ケイエスエス
> *H13.8 米国版ビデオ“EEL”
「II 著書・作品」p99より抜粋
> 695 吉村 昭著 海馬(トド) 動物に映す人間の生
> ◎H1.2.12 「朝日新聞」書評
> *高橋英夫⇒『海馬』「海馬」「鴨」「闇にひらめく」「研がれ
> 角」「螢の舞い」「銃を置く」「凍った眼」
> *H12.7 『小説は玻璃の輝き』高橋英夫著 翰林書房
「IV 書評・関連記事」p317より抜粋
> 1166 吉村昭とその作品
> ◎H11.3 『この時代小説がおもしろい』櫻井秀勲著 編書房
「IV 書評・関連記事」p352より抜粋
「闇にひらめく」の初出は昭和53年7月の「小説新潮」、初収録単行本
は平成1年1月の『海馬』で、その後、文庫化されています。◎印は、編
者が確認したことを示します。映画の前にラジオドラマ化されたことが
あったんですね。また、高橋英夫氏や櫻井秀勲氏の書評・関連記事が出
ていることがわかります。
個人書誌をまとめ上げるには、大変な時間と労力、並々ならぬ情熱と根
気が必要です。夫人の津田節子氏の序文によると「夫、吉村昭は、木村
暢男氏が編まれた年譜が送られてきた時、初めは気味悪がっていた」ほ
ど。本人がまったく忘れてしまっているものまで拾い上げられていて、
その克明、詳細、正確なことに驚いていたそうです。
吉村昭に関する資料を網羅的に調べたい時など、本書をご活用ください。
そういえば、余談ですが、今秋、吉村昭原作の映画『桜田門外ノ変』が
水戸藩開藩四百年を記念して公開されるみたいですね。
「人物書誌大系 41 吉村昭」
木村暢男〔編〕
A5・470p 2010.3刊 定価19,110円(本体18,200円)
ISBN:978-4-8169-2240-4
http://www.nichigai.co.jp/cgi-bin/nga_search.cgi?KIND=BOOK1&ID=A2240
(竹)