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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ―信用を得るには100年、失うのは一夕
■╋ 「企業不祥事事典―ケーススタディー150」
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「信用を得るには100年、失うのは一夕」といわれます。不祥事に
よって、多くの従業員が路頭に迷います。
タイトルは、ずばり、企業不祥事事典、といたしました。編集の意
図は、監修の齋藤憲先生(専修大学経営学部教授)の文章に委ねると
しますが、この「監修に寄せて」も含めまして、本書のセールスポイ
ントを幾つか列記したいと思います。
なお、全体150のケースを載せ、それを、ガバナンス―経営者関与、
ガバナンス―従業員関与、製造物責任、日本型企業風土、報道機関の
使命欠如、の5つのカテゴリーに分け、分類しております。
1)戦後のパースペクティブ、すなわち、この60年余りの我が国の経済・
産業、企業の発展と紆余曲折の視座のなかで本テーマを捉えていま
す。日本的経営すなわち、終身雇用・年功序列、品質管理追求とい
うパラダイムのなか、Japan as no.1 といわれ、その後のいわゆる
「バブル崩壊」から現在に至る動き、外資席巻やM&Aで受身的対応
を迫られ、新しいパラダイムを創出しえず、もがき苦しんでいる、
というこの企業社会の一断面を、いわば「負」の検証から捉えたつ
もりです。
巷間には、最近の事例をもとに一方的にスキャンダラスな面を暴い
たり、来る内部統制の法律に対応の照準をあわせたもの、あるいは
企業の社会的責任(CSR)の今日的な観点からの分析という本も多く
見受けられますが、それらを読む上での事実関係の基本的資料とい
う面も持たせました。
2)掲げた不祥事の一連を注意深く見ていきますと、いわゆる「内部告
発」から明るみに出た、ということが分かります。2004年に「公益
通報者保護法」が公布され、それはいまや、従業員は忠誠を尽くす、
会社は一生面倒見る、という我が国の成長期経済を支えたスローガ
ン・終身雇用が崩壊していることの一端が示されているように思い
ます。現在は会社発展の為の高い規律や企業への帰属意識が持ちに
くくなっています。
このような新しい図式のなかでの企業不祥事報道を、忠実に追った
つもりです。
3)事後に関係者の処分・報酬一律カット、という横並び的対処や、対
応を誤り、燎原の火のように事が大きくなっていく様が叙述されて
います。さらに、不祥事を真摯に受けとめ、あたらしい対応をする
様も積極的に入れています。
マイナス情報も含めた徹底した情報開示などリスク回避の具体的な
方法論を求めるためにも、その道しるべ・リスクマネジメントの手
段となりうると思います。
3代に亘ってこの会社に勤めています、と誇らしげに語る従業員に出会
うことがあります。企業人は「会社のため」に働き、それは一部「エ
コノミックアニマル」「企業戦士」と揶揄されて今日まで来ました。
この不祥事からは、確かにそうだと思われるものものから、さらには
企業人の哀切さまでもが垣間見えます。
本書によって、企業社会が日本的な企業システムから脱却し、あらた
なパラダイムに立ち、フェアーな市場において、高い安全意識や規律
を取り戻すことの一助になればと希うものです。
(編集局・朝日)
◆企業不祥事事典―ケーススタディ150 <日外選書 Fontana>
齋藤憲 監修 定価5,800円(税込) A5・500p 2007年7月刊
http://www.nichigai.co.jp/sales/company_scandal.html
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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ―患者としての体験から医療のあり方を再考!
■╋ 「からだ、不可解なり」
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印刷会社の担当者に、「編集者はいいよなあ、一つの本を担当すると
その内容が分かって、知恵がついて」とよく言われます。勿論、その
担当者だって、校正を読むことが出来るわけですから、事前に内容は
分かると思います。たぶん彼は、一書の編集の経緯のなかから、得る
ところが沢山あるのだといいたかったのでしょう。そんな経緯の一端
を紹介いたしましょう。
著者・澤井先生と、宗教学者・山折哲雄先生との対談を企画しました。
こういう、形而上のテーマは、対談や講演録のような生の言葉が理解
を助けることが多いという判断からです。
今回も山折先生が抱える問題を上手く引き出していただき、さらに議
論は東西の文化の深淵にまで及び、碩学、とはこういうご両所のこと
を言うのかと、同席して思いました。
こんなくだりがあります。
山折:万葉集の中に挽歌、死者をいたむ歌がたくさん出てまいりま
す。それを見るとほとんどの人は、息を引き取ってもう死ん
だということが確認されると、山の麓とかに放置されるわけ
です。そうすると体から魂が抜けていって、山頂へ上ってい
く。そういう信仰がだいたい定まっていたと思います。しか
しそうする前の段階で、しばらく地上に安置するつまり「も
がり」という風習がありました。三日、そのままにしておく
とか、一週間、そのままにしておくとか、そういう前段的な
儀礼がありました。それは抜け出ていった魂が再び戻ってき
て蘇生する可能性が期待されているからです。つまり死に至
るまでの一種の猶予期間です。
この後、我が国に仏教が入り、霊肉一元論になった、という思想史が
語られます。
澤井:例えば胸が痛いとか言う時に、たいていはここ(胸)を押さ
えますよね。僕は多分、おなかを押さえると思うんです。だ
から心というものがその人それぞれの意欲とかモチベーショ
ンとか、そういうものすべてをつかさどる総体のようなもの
だという気がします。僕の場合、その総体というのは、もち
ろん呼吸して生きてますけど、これが無いとすぐに死んでし
まいますから、ここがある意味で、僕の複合的な総体なわけ
です。
澤井流の、「心」論が展開されると言う具合です。
山折先生は浄土真宗の僧侶でもありますが、もうお一方、富岡幸一郎
先生の推薦文を挙げなければいけません。富岡先生はクリスチャンで
す。以下のように、キリスト教とアニミズムの示唆をされています。
およそ「近代」の思考の根底にあるのは、人が「生きなければなら
ない」という生命至上主義、人間中心主義のヒューマニズムである。
宗教において、この「ねばならない」という思考はいわゆるファン
ダメンタリズム、原理主義と呼ばれるものに転化する。キリスト教
の内にもこのような一神教の原理主義がある。澤井氏が中世・ルネ
サンスの研究のなかで、アニミズムや魔術思想に深い意味を見い出
しているのも、一神教の原理主義の「尊大」の危険を十分に洞察し
ているからであろう。
あたかもいま流行の歌『千の風になって』の世界も伺えます。
さて、著者自身は、自著を語る(書評館)で、
自分のからだについてはわからないことばかり、というのが正直な
ところです。からだも、心体とかいて、自分で勝手に納得していた
ころから、「からだ」と平仮名で書いてやっと落ち着きをえる時期
までずいぶんと日数がかかりました。
と書かれています。
これにはちょっと、説明が必要です。
本書では、こういうように書かれています。
「からだ」には、病を抱え込みうる物質的な〈肉体〉と、構造性を
強調する〈身体〉の二つがあるらしい。とすれば、身体障害者とは
有機的な内外のからだの構造の一部を喪失した者の謂であり、病人
と身体障害者は違う、と提言する学者の説、それを受容しようとし
た私の意向が内実を得たことになる。病んでいるのではない自分を
確認し訴えたかった。(なぜなら、透析時代から移植手術を経ても、
一部の無知でかつ心ない医療従事者をはじめとして、友人知人のほ
とんどが私を病人扱いしたからである。闘病生活で大変でしょうが
頑張って下さい―この種の励ましの言葉を直接かけられたり手紙を
くれたりした)。
しかし学者の説を一応納得ずくで採り入れても、あくまであたまか
らの言葉でしかなく、「からだ」を〈肉体〉と〈身体〉の次元でみ
ずから捉えきってはじめてからだからの言葉となって、私の内に生
着した。
教育、宗教、医療という精神の崇高さが求められる最たるものが現在
の日本では病んでいると言われます。どうも著者は、みずからのから
だと引き替えに、徒手空拳で生の論理を弁証しているように見えます。
これを読者に上手く伝えられるよう編集に腐心したつもりです。碩学
のハーモニーを堪能してください。
(編集局・朝日)
●からだ、不可解なり─透析・腎臓移植に生かされて
<日外選書 Fontana>
澤井繁男著
定価1,980円(税込) 四六判・230p 2007年6月刊
http://www.nichigai.co.jp/sales/karada.html
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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ―企画のノウハウの伝承とは
■╋ 「ビジネス技術 わざの伝承」
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世阿弥『風姿花伝』にこんな一節があります。
「秘する花を知る事。秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず、と
なり。この分け目を知る事、肝要の花なり」
秘してこそ「花」とでもいうのでしょうか、この「花」に、企画で培っ
たノウハウを重ね合わせたところに著者の卓見があります。
従来のマーケティング手法は、現在の市場では効力を失っている、と
言われて久しいようですが、著者も広告の名門・電通にいて、マーケ
ティングとは何かを真剣に考えてこられました。その電通は、入社以
来、徒弟制度さながらだったといいます。この風土や先輩の言をヒン
トに、企画のノウハウの伝承とはいかにあるべきかを書いたものが本
書です。
電通と能の世界、随分と違和感がある、と思われる方も多いのではな
いでしょうか。普通は、伝統芸能も行き詰まったから、一丁、マーケ
ティングの手法に学んでみようか、ということなのでしょうが、これ
は反対を言っているのですから。
作家になりたければ、まず、好きな作家の文章を写しなさい、と言わ
れます。構成や言葉の使い方、さらには句読点にいたるまでその作家
の息づかいが身につくからでしょうか。最初は真似でも、そのうち、
鴎外でも漱石でもない自分の「文」が出来て来ると言われます。
ある刀匠は、弟子に向かって、「カラスが白い、と自分が言ったら、
そう思え」と教えるようです。絶対服従です。この修行を3年もやる
と、次第に師匠から脱皮して、自らの型が出来てくると刀匠は言って
いました。
この方法論はもの作りでは早くから実践されてきましたが、ことソフ
トに関しては手が着けられていません。
著者は、方法論の古典『風姿花伝』ならぬ、著者独自による「メソド
ロジー」という方法論で、伝承の論を具体的に進めています。
私は初めは、編集者として、意味がよく飲み込めないところもありま
したが、著者の丁寧な説明と4年をかけた熱気に押されて、随分と理
解が進みました。
発想斬新、検証詳細の本書、お奨めです。
(編集局・朝日)
●ビジネス技術 わざの伝承 ―ものづくりからマーケティングまで
<日外選書 Fontana>
柴田亮介著
定価1,980円(税込) 四六判・260p 2007年5月刊
http://www.nichigai.co.jp/sales/biz-waza.html
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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ―事故の記録を立体的に描く
■╋ 「鉄道・航空機事故全史」
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私が小学生の頃、三河島事故、というものが起きました。テレビが家
に入って数年、いまから思えば映像も粗かったでしょう、しかしアナ
ウンサーの声と多重事故の映像が鮮明に残っています。
この事故について、『文藝春秋』の特集(2005.10)で、柳田邦男・
畑村洋太郎両先生が「三河島事故 過去に学ばない日本人」として対
談されています。
内容は、三河島事故は、昭和18年に起こった土浦事故と同じ様相・経
緯であり、どうしてこれを学ばなかったのか、と両事故のシーンを細
かく語られています。
わたしはこの事故を調べていくうちに、『空白の五分間―三河島事故
ある運転士の受難』という書物に出会い、事故当日、ボクサー・ファ
イティング原田の世界タイトルマッチがテレビ放映されていた時間と
関係していることを知りました。その番組を事故現場の近くの人が見
ていた・・・。その時間帯が裁判の証拠となっていきます。面白い、
といっては事故に遭った方には申し訳ないのですが、このような経緯
を事故はみせてくれます。
そこで一つの事故を、事故の経緯、経過、被害者の数、裁判、碑文、
参考文献、コラムと立体的に描こうと腐心いたしました。
第I部はこのような比較的資料のある53件を解説し、第II部では、総
件数2,298件を網羅しております。
総説・I部の執筆は、災害情報センターです。読まれれば分かるとお
り、あらゆる資料を精査して、事故の時間は、分・秒までの記述に
なっております。
第II部は、『昭和災害史事典』と『平成災害史事典』が弊社の既刊と
してあり、これを再編集しております。
さらに柳田邦男氏の推薦文「水平展開の宝庫」を頂きました。
この書籍が刊行されて間もなく、JR宝塚線脱線事故の調査に当たった、
国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、今後トラブルや失敗事例を
収集し、事故の未然防止に積極的に取り組みたい、国土交通相に建議
する、としたようです。
航空分野の収集は進んでいるようですが、鉄道は遅れている、とのこ
と。本書の活用が望まれます。
過去に学ばない、台風一過、のどもと過ぎれば、と言う風土が昔から
言われます。本書が利用されることによって、事故が身近な愛する人
を奪わないよう、願って已みません。
(編集局・朝日)
●鉄道・航空機事故全史(シリーズ 災害・事故史 1)
<日外選書 Fontana>
災害情報センター、日外アソシエーツ共編
定価8,400円(税込) A5・510p 2007年5月刊
http://www.nichigai.co.jp/sales/accident.html
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■「書評館―日外アソシエーツ・ブックレビュー」オープン!!
日外アソシエーツは、創業以来、書誌・索引、辞書・事典など、所謂、
「物さがし」のツールを中心に出版してまいりましたが、5月に「日外
選書 Fontana」というシリーズを創刊しました(フォンターナ=イタ
リア語で“泉”の意)。
日外選書 Fontana
http://www.nichigai.co.jp/sales/fontana.html
Fontana には、従来の弊社の枠に収まりきらない選りすぐりのテーマ
の単行本(読み物)も含まれます。お陰さまで、なかなか好評でして
いろいろな新聞や雑誌などで紹介されました。というわけで Fontana
以外の出版物も含め、比較的最近の書評を集めて転載許諾を得た上で
ブログ化した「書評館」がオープンしました。中には著者に「自著を
語る」として寄稿していただいた記事もあります。
書評館―日外アソシエーツ・ブックレビュー
http://nichigai.blog.shinobi.jp/
“選書”やご購入の参考に、弊社ブックレビューをご一読いただければ
幸いです。また、皆さまからのコメントを心よりお待ちしております。
追記(裏話):
ブログのネーミングに苦労しました。紀伊國屋書店さんの「書評空間」
のような格好Eタイトルにしようと、社内公募の結果、さまざまな案
が出ましたが...洒落たタイトルはググってみると既にそういうサイト
が存在していたりします。
・書評処
・書評箋
・書評の泉
・書評の杜
・書評無常
・書評の缶詰
で、結局、落ち着いたのが「書評館」でした。書評の缶詰でなくて
よかった...。
(竹)
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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ―澤井繁男氏、自著を語る。
■╋ 「教育パパ血風録」
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みなさんこんにちは。教育ママならぬ教育パパです。これは、娘が
ふざけてぼくのことを呼んだのですが、ぼくじしんそういう気がなき
にしもあらずなので、否定もせず、笑ってうけいれてしまいました。
我が家では、こと「学校」関係のこととなると、母親よりも、父親
のぼくのほうが関心がたかく、口をだすことが多かったのでした。ぼ
くはしたい放題の教育方針でした。上の娘が中学二年生の二学期もお
わりのころ、はじめてまじめに、将来を尋ねてみました。高校に進む
かどうかです。娘は高校進学と、ついでに大学も行きたいと応えまし
た。
「そうか、それなら、パパの経験が役に立つから、すこし言うこと
をきいてみるかい?」
そう言いますと、素直に頷くので、はじめて塾というものに通うこ
とを勧めました。こんな調子で父娘の二人三脚がはじまりました。塾
も最初は近所の塾、そして予備校へと、だんだん広げていって、いま
の自分の力をその都度確認させました。
ぼくが大学受験の予備校で教えていたものですから、中・高校生の
学力から、彼らを教えている「先生」の力がみえてきていました。
この本は、「先生」はみな物知りで、学力があると錯覚している人
たちに向けてかかれています。先生の当たり外れ、というのはよく耳
にする話ですが、まさに、その「外れ」の先生について、それでいい
のか、そんな教え方でいいのか、と父親の立場から批判している内容
です。ちょっぴりきついことがかかれているかもしれませんが、胸の
つかえが取れたと思う方もおられるかもしれません。
母親でなく、父親が言うところに意義があるのではないか、と考え
て書いたものです。父親不在に対しても意見をしているのはもちろん
です。
(さわい・しげお 関西大学教授)
<聖教新聞 2007.6.27 7面「きのうきょう」より転載>
●教育パパ血風録 <日外選書 Fontana>
澤井繁男著 定価1,680円(税込) 四六判・200p 2007年5月刊
http://www.nichigai.co.jp/sales/education_papa.html