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■╋■╋ スポットライト・コラム
╋■╋ ―英文学の背景にある「窓」と「窓文化」を理解する
■╋ 『イギリス「窓」事典 ― 文学にみる窓文化』
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日本とイギリス。2つの国には共通点が多く、イギリスに対し親近感を
持つ日本人は多いと言われています。例えば、両国とも大陸のはずれ
にある島国、両国とも皇室・王室を戴いている、古い歴史や伝統・武
士道や騎士道を重んじる気質がある、日本(本州以南)は梅雨があり
イギリス(特にロンドン)は霧が有名、議院内閣制で政体も似ている、
ゴシップ好き(?)、などなど。特に明治35年の「日英同盟」締結以来、
日本は“東洋の英国”を目指した時期があり、イギリスという国に憧
れを持つメンタリティが日本人の中に今も少なからず残っているとい
えるでしょう。
ただ「古いものを大切にする」といっても、こと建築物に関しては、
その内実は少し違っているかもしれません。日本の場合、歴史的建造
物は“文化財”として大切にされる傾向が強いように感じられます。
ご承知のように日本では木造建築が中心で、地震・噴火・火災により
失われることが多かったため、風雪に耐えて残っている建築物は貴重
です。白川の合掌造り等は現在も住まいとして使われていますが、多
くの場合は「文化遺産として保存」されるべきものという意識が強い
ようです。
一方イギリスの場合は、まず地震災害がほとんどありません。また歴
史的建造物は石造りやレンガ造りのものも多く、火災によって焼失す
る可能性も日本ほどではなく、きちんと手入れをすれば機能を維持し
たまま残していけます。したがって築100年、150年という一般住宅も
珍しくなく、古いものも多くの場合は「手入れをしながら実用」する
べきものという意識が強いようです。そんなこともあってか、イギリ
スでは街並みの普通の風景として、さまざまな時代・意匠・様式の建
築物が仲良く並んでいるのを見ることができます。
本書『イギリス「窓」事典 ― 文学にみる窓文化』(三谷康之著)は、
こうしたイギリスの建築物のなかでも「窓」にスポットをあてて、語
彙の説明・文化的背景の解説、文学作品での用例を詳述した書籍です。
柱や梁といった骨組みから作られているため、大きな開口部の窓を容
易に配することができる日本建築とは異なり、建物の重量を壁全体で
支えていたイギリスの歴史的建造物の場合、大きな窓は建物の強度に
直接関わるものでした。庶民にとって「窓」は“贅沢品”という感覚
で、またガラスがまだまだ高価だったことから、いわば富の象徴とも
なっていたようです(「窓税」なるものもありました)。そのためか
古来イギリスの「窓」には凝った意匠のものが多く、それに伴って様
様な名称や語彙が生まれてきました。しかし日本人にとって、そうし
た背景を知った上で、窓の名称や周辺語彙を正しく理解するのは大変
難しいことです。本書の冒頭で著者も述べていますが、英和辞典・英
英辞典を見ても載っていない言葉がとても多く、また載っていたとし
ても言葉による説明だけでは具体的イメージがわかない事がしばしば
だからです。
本書では、一般家屋から教会建築・歴史的建造物まで40種330に及ぶ
「窓」の名称を収録。また300枚以上の写真(ほとんどが著者撮影)
を掲載し、‘blind window’‘bull's-eye glass window’‘chimny
window’‘fire window’など日本人がイメージしにくいものも、ビ
ジュアルに理解できることを目指しました。また95人の作家の187作
品から「窓」にまつわる文例のべ423編を紹介。英文学作品のなかで
「窓」がどのように表現されているかをわかりやすく解説しています。
英文学の背景にある「窓」と「窓文化」を理解するために、また英和
翻訳に役立つ専門事典として、是非ご一読下さい。
(編集部・尾崎)
◆イギリス「窓」事典 ― 文学にみる窓文化
三谷 康之 著 定価 9,600円(税込) A5・480p 2007年12月刊
【好評既刊】
◆イギリス紅茶事典 ― 文学にみる食文化
三谷 康之 著 定価 6,930円(税込) A5・270p 2002年5月刊
◆事典・イギリスの橋 ― 英文学の背景としての橋と文化
三谷 康之 著 定価 6,930円(税込) A5・280p 2004年11月刊